十二人の怒れる男(1957米)感想

*ネタバレ要素あり。注意。

制作:1957年アメリ
原題:12 Angry Men
監督:シドニー・ルメット
脚本:レジナルド・ローズ


陪審員8番:ヘンリー・フォンダ

あらすじ。12人の陪審員が殺人事件の評議を始めた。11人が有罪と判断するなか1人が無罪に挙手する。


感想。俺は96分間身じろぎも出来ず引き込まれ、時に唸り時に感嘆し、ENDマークで我に帰って初めて紅潮し薄く汗ばんでいることに気付いた。

密室劇

室内で終始する密室劇。驚いたことにまた劇中ほぼ音楽がない。
カメラワークと演技と展開で構成された作品だ。
登場人物の紹介は一切なく評議中名前すら明かされない*1
表情、身なり、台詞、立ち振る舞いから各人の個性が浮かび上がる。
見事という他ない。

異議あり

「無罪を確信しているわけじゃない。ただ(証言や証拠に)疑問を持っている」
ああ11人の男たちはアンフェアな屑どもか?
断じて違う。彼等は極めて平均かつ平凡な市民だ。多少の偏見や感情的な面は、ない人間などいるだろうか。
それなりの地位を持ち教育を受け市民の義務を心得た善良な紳士。あの場に集った男達は皆そう呼ばれるに値する。
正直、当初の彼らの気持ちはよく分かる。迷惑げで戸惑い微かな苛立ち。
さもあろう、法廷で既に審議は尽されたのだ。いたずらに議論を蒸し返してどうしようというのか。
自然な感情であると思う。あらゆる会議、打ち合わせ、ミーティングで味わうあのうんざりした感覚。
早く終わって欲しい誰も口を開くなと祈り息を潜めるあの。

最善

最善を尽くす、言葉にすると簡単だが行うは難し。
俺は頭を抱えてしまう。
俺は、俺は。あの皆が背を向けた演説の男を冷ややかに見る、そんな資格があるだろうか。
そして資格などあろうとなかろうと、誰でもあの場にいることはあり得るし
あの場で裁かれる誰かであることもまたあり得る。

正義

俺は混乱しおののいている。
主張をすることが如何に難しいか、内容に関わらず煙たがられ疎まれその圧力のなかブレずに意見を貫くことがどれだけ強靭なハートを必要とするか。
話し合おう、陪審員8番は呼びかける。たった5分で人の生死が決められていいものか、と。
なるほどそれは正義であり理性であり模範の姿だ。
根拠も熟慮もなくヒステリックに有罪有罪と喚きたてる狂信的な男たちに比べ、なんと颯爽としていることだろう。
だが俺はそんな正しい彼に
「異様さ」を感じてしまった。
静かに怯えて暮らす臆病な俺にもせめて…2番目の老人の勇気があればと思う。

*1:評議後も名前が判明するのは二人だけ