連塾ブックパーティスパイラル 巻2 感想:映像について

行きて帰りし物語

めくるめく半日からはや一週間。何とかレポートはあげたが感想めいたものは未だ出力できていない。
手始めに最後の映像から手をつけようと思う。
なぜなら6時間半に及ぶ本談のなかでもっとも度肝を抜かれたのは何を隠そう最後の端に流れた中道淳さんの写真をスライド映像化した作品だったからだ。

俺と嫁さんはそれをお茶漬けと称した

松岡正剛さんと6人の男女による本談であったが、その様子を最前列で撮り続けた写真家が中道淳さんだった。
不勉強にもまったく存じ上げない方で、どうやら建築物撮影などの仕事が有名らしい。
正剛氏が中道さんを紹介しスライド式の映像が流れ始めたとき、俺は一瞬で引き込まれた。
白黒写真の人物。バストアップ、全身像、顔のアップ、対談の様子、映り込む背景。催眠的拍子木の鳴る中、絶妙に切り取られた時間と一瞬、興奮と輝きに目を奪われた。
艶やかな鮮度に重たさのない躍動感、さっと差し出され惜しげもなく移り後を引かない淡麗な甘さ。
俺はあっけにとられ何という贅沢な〆のお茶漬けと胸中つぶやき思いも寄らなかった伏兵のうれしさに打ち震えた。特に川上さんはいい顔をしており今後のこの写真を使えばいいのにと勝手なことを思った。
スライドでありながら物語性をはらみラスト群像写真でまとめ上げ終了した。もう大喝采である。

虫の羽音

照明がつき席を立って俺が隣の嫁さんにかけた第一声は「いやあ最後すごかったねー」だった。
嫁さんは同意であると言った。俺は同じ気持ちであることに大変ご満悦でありふごふごした。
きっと会場の皆も同じ気持ちに違いない。
しばらくあとで嫁さんがしかしあの映像が始まったとき、観客席にまだ終わらないのか的な空気が流れたと聞かされ俺は唖然とした。まさかというと嫁さんは肩をすくめてあたしの気のせいかもしれぬとフォローしてくれた。
俺はそうかと言いややあって長丁場だったしねと言った。さびしいものである。

NZの刺客

今回の催しにはいろいろな映像が使われた。まず有名人たちの本と本屋に関する名言のスライドから始まった。嫁さんはいくつかの言葉にいらだちを覚えたようだが本に愛着のない俺は興味深くこれからの数時間を予感させる前菜とした。
次にチームラボという映像集団によるオープニングムービー。ごめんよく覚えていない。
今福龍太さんのショートムービー「ガヤドミチ」。友達が映像のみを今福さんに送り、それに音とナレーションをつけたものという。味わいのあるセンチメンタルな一品でした。
身体としての書物に使用された二重露光の写真たちをスライドで解説してくれたのだが、一回性の偶然で出来上がる奇妙な符号と暗示に陶然となった。
今福さんが最後に取り出した物騒な作品がこれ。New Zealand Book Council(ニュージーランド図書評議会?)のもっと本を読もうぜ的なPVらしい。

  • NZ Book Council - Going West


観客席から拍手喝采の素晴らしいPV。俺と嫁さんも力一杯拍手しました。ブラボーブラボー。

世界の違い

小城武彦さんのスライドは他と一線を画したいわゆるプレゼン資料でした。いかにもビジネスな世界の言語でむしろこういう場では新鮮に映った。明確な説得力を持つものはやはり力強い。
笈入さんの時は映像はなかったように思う。氏の店舗の様子や棚などのスライドくらい。
川上さんの映像は映画「パンドラの匣」のPV。当時はだいぶふくよかだったようである。
最後の対談者、杉浦康平さんの映像はすごい。今回はあらかじめ原稿と映像を用意されていたそうで、アドリブを好む正剛さんにしょっぱな謝っていたのがほほえましかった。
流れるのは杉浦さんの「本」についての考察と自身の仕事をまとめた内容で圧巻。一冊の本は1であり開けば2でありめくれば多であり閉じればやはり1に戻る。一即二即多即一。また複数の素材の集合体である本を「多様体」と呼び真っ黒い本、豪華な本、高価な本など強烈かつ奇天烈な装丁の数々。
俺はあまりのぶっ飛びっぷりにすっかり感覚がマヒしおおアイデアマン、アイデアマンと恐れおののいていた。

68の巨人、79の怪人

のちに嫁さんと杉浦さんについて話したとき、正剛さんが杉浦さんに意地の悪い質問をした件が話題に上った。正剛「電子書籍についてどう思いますか」と問うた。嫁さんはこの質問は意地が悪いよと言った。どうしてと聞いたらだって質問者は紙の本が断然良いと誘導しているものと答えた。なるほど。
しかしそんな正剛さんの意図を知ってか知らずか杉浦さんの返答は「あれは面白い、大いに可能性がある!」というものでした。10年出るのが早ければ、きっと手掛けていただろうなぁと少し残念そうな79歳の杉浦さんでした。こんなつやつやした70代後半は久しぶりに見たよ。いやまいった。
正剛さんも氏には頭が上がらないようで、掛け合いがすごく楽しかった。杉浦さんは大学で建築家を目指していたそうだがなぜかデザインを頼まれるようになった。まったくその業界を知らなかったので印刷所に通い詰め職人さんたちにいろはをたたき込まれたそうである。そんな杉浦さんに正剛さんはやはりいろはを叩き込まれた。
そういえば今日買った松岡正剛の書棚p42にいい顔の言葉があったので引用する。今日はここまで。

かつてハーバード大学にいた片山利久は「もし杉浦康平をグラフィックデザイナーと呼ぶなら、世界中のデザイナーはデザインをしていない」という名言を吐いた。