中国動漫新人類感想:日本アニメ・漫画が民主化をうながした

中国動漫新人類 (NB online books)

中国動漫新人類 (NB online books)


感想。強靭!無敵!最強!粉砕!玉砕!大喝采!!
何故中国政府は「愛国教育(「反日教育」ではない)」を行ったか
何故中国政府は2005年の反日運動を光の速さで強制的に収束させたか
何故中国政府は急激に(いつの間にか!)親米路線に切り替わったか
何故アメリカ下院で2007年に突然、従軍慰安婦問題の対日謝罪要求決議が話題になり可決されたのか
何故この決議はカナダやオランダに飛び火したのか
蠟小平は江沢民は何を意図していたか


以下長文
本作執筆の発端は作者によれば実に素朴な疑問だったそうである。
日本の動漫(アニメと漫画)大好き!な若者
と同時に反日を声高に叫び時に暴徒化さえする若者
彼らは「同じ」なのか「違う」のか?
同じひとびとであるならば、なぜそのような捩れた状態に陥り、どうふたつの思いに折り合いをつけているのか…。


前半、90年代以降くらいから2007年当時まで、中国の(少なくとも都市部の)若者達に日本のアニメ漫画がいかに愛されいかに影響を与えているかという事実がこれでもかと列挙される。
まずこの時点で俺の想像をはるかに越える事態であった。
90年代ほぼ100%の中学生がスラムダンクセーラームーンにケツを掘られ
現在でもクラス中の連中がクレヨンしんちゃんなどをむさぼる様に視聴し
(そして中国産のぱくりアニメに対して批判し!)
中国共産党政府の主催でコスプレ大会が行われている。
なんだこれは…どうなってるんだ…
正直俺は途方にくれた。「あの」中華人民共和国とはとても信じられなかった。


告白するが俺は中国の近現代史をまったくといっていいほど知らない。
毛沢東文革四人組蒋介石台湾などなどちょっとしたキーワード程度だ。
例えば中国古代哲学の論文を読んでも
一頁ごとに「マルクス」と出てくるようなお国柄である。なんで諸子百家論じててマルクスが出てくるんだよおまえらw
つまり自由を標榜する学問研究ですら社会主義共産主義を「絡めなければならない」国。
政治の流れや国際情勢にいたっては俺の知識と見識はおそらく小学校の社会科以下だ*1
そのいろんな意味で右も左もわからない俺が
本書の後半に踏み込んだとき
そこに恐ろしいまでの国際政治の複雑怪奇と深謀遠慮神算鬼謀が渦巻いていた。*2
何故中国で日本動漫が超流行っている現象を追いかけて
「そもそも中華人民共和国とは何か、そこに生きるひとびとは何者か」を掘り下げていかなければならなかったのか。
台湾が、アメリカが、ソ連が、日本が。いつ何をどうして行いそれを受けてどこがどう動いたのか。
俺の貧弱な理解力では明確に要約できませんごめんなさい。
とりあえず作者の分析結果のひとつである
「中国はいつか(近いうちに?)民主化する」だけはわかったです。
これは俺の直感*3にも合致する。
作者が名づけられた「大地のトラウマ」、「シグナルによってスイッチが切り替わる」といった論が現代中国理解の核になってくるのだが、これについては誰か読んで私に教えてください。


無論、作者は神ではない。本職の国際政治学者でもない。
中国でお生まれになり、長年教壇に立ち留学生の世話をしてきたとのこと。
ご本人もはっきりと、中国に思い入れがあると明言なさっておられる。
しかし俺の読んだところ、その着眼点、情報収集、および分析力、特に公平な視点は明晰かつ大胆で
全体を通して大きな瑕疵が見当たらなかった。
これには周辺問題に詳しい諸兄に異論反論あるかたもおられるだろう。間違いや恣意的な提示もあるかもしれない。
しかし、ささやかな作者の主張・解釈・提案は、充分常識の範囲内だと思う。
日本政府に対しても中国政府に対しても賛美するところは賛美するが、きちんと手厳しく批判もする。

グローバリゼーションの時代においては、国同士が互いに深く依存して生きている。だから、たとえば、内政不安により中国経済が破綻すれば、日本の多くの国民の生活にも深刻な影響があるのはまちがいないからだ。

若者達の精神革命(=民主化といっていいだろう)が性急に進んではならない、という作者の主張に対する理由が上記引用であるが、
この「国同士が互いに深く依存して生きている」はそのまま、たとえ過去がどうであれ友好的な関係を結ぶのが賢明である理由にもつながるだろう。
ぶっちゃけ中国のような凄まじい国が愛国を口にした時、そこに「理由」があるのだ*4。その理由がなかった時期はむしろ国家を挙げて親日を喧伝していた。
中国にとっても日本は、過去はどうあれ、友好的であらざるを得ない重要な国だからだ。
目が回る目が回る。


俺は単純で視野が狭い*5ので
本書で紹介される中国の「憤青」に近いメンタリティーをもっていると思う。
日本版憤青といったところか。
領土問題や参政権問題を見れば瞬時に頭に血が上る間抜けである。
勉強しなければ。ぶちきれる前に「このひとたちはこういう思考回路なのか」ということを知り理解しなければ。要は普通の友達関係と同じらしい。
いろいろ為になった一冊でした。
 
 
 

*1:すまんAKIRA、MASATAKA。おまえらホント博学だな

*2:政治通にいわせれば「何をいまさら」なのかもしれないがそんなもの俺の知ったことではない。

*3:中国は民主化と資本主義社会にソフトランディングするために落しどころを模索している、と思う

*4:とてもあるとは思えない脊髄反射的素朴な国もあるかもしれないが

*5:おまけに臆病で卑怯