Vol.5対話号:表紙 「成長」を目指して、成しつづけて――村上春樹インタビュー
モンキービジネス 2009 Spring vol.5 対話号
- 作者: 柴田元幸
- 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
- 発売日: 2009/04/20
- メディア: 単行本
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表紙
- 今回は黄緑に空色、深紫の配色です。二匹のお猿が対話している図
- 表紙裏に文章。「惑星便り・1」古川日出男
空色お猿と紫お猿が赤紫の対話をしており、これが∞マークになっております
古川氏の文章が表紙に捧げられております。
対話、この哲学における奥義のひとつ。
噛み合った対話は性以上の快楽です。
「成長」を目指して、成しつづけて――村上春樹インタビュー
- 聞き手 古川日出男
- 村上春樹氏のロングインタビューです
- 要約
- 肉体から小説を作るんだ。これは詩的な表現ではなく文字通りの意味
- 執筆は第一に肉体的に辛い作業。十年二十年やっていくとフィジカルに潰れるのではないかという危惧
- 三十代、四十代の執筆について。
- 健全な肉体に宿る不健全な魂
- 小説を書くためには魂の不健全なところに降りて行かなければならない。そのために肉体の健康が必要。
- 海外での創作期について
- 当時の仲良しサークル文壇。「友達じゃなければ敵」。もう日本でうろうろしてもしょうがないな
- 四十代の作品について。熱意と勢いで正面突破。そんなことが出来るのはせいぜい四十まで
- 四十を越えて同じようなことしてると人はてきめんに読んでくれなくなる
- 1990年代とアメリカ滞在、ねじまき鳥クロニクル
- この作品でからっぽになった。一段落ついた。
- 保守から批判され前衛からも批判された。日本の既存の文学システムの崩壊。
- 「やっぱり読者は支えてくれましたね」
- アンダーグラウンド執筆について
- 小説はしばらく書きたくなかった。いろんなひとにあって話を聞きたかった
- 一年貰って被害者のみなさんの声を集めた。
- この作品の中ではなるべく自分を消そうと務めた
- 普通の人の語りだけでワンテーマで厚い本を作って一般の読者に読ませる、というのはすごく大変。苦労した。
- 緻密なモンタージュ作業。手を入れまくった原稿を話してくれた相手に確認してもらうと「自分の話した通りです」
- 一人称、三人称について。神の子どもたちはみな踊るについて
- シドニー!について。アスリート的執筆。一日に完成原稿三十枚を四週間。900枚。
- 書く行為と走る行為。「そのかわり書かないときにはまったく書かない」
- シドニーにいる間ひたすら書いていた。考える速度で書いていた。
- そこでやっと、自分には充分な文章力がついたと自信と確信を得た
- 海辺のカフカについて。達成感のある小説でした。
- アフターダークについて。実験的な作品。東京奇譚集について
- 短編小説、小説の筋肉、小説の武器
- 漱石の生きた激動の時代。激動の現代。
- 現代、9・11以後について
- 世界情勢がカオスになったから自分の小説は読まれるようになったのではないか
- 日本、崩壊先進国。「東アジア文化圏」を形成しつつあるのではないか
- イズムを軸にしたヨーロッパ的読まれ方。感覚的に「ただ読む」アジア的読まれ方。
- ドストエフスキー、総合小説。60近くになって過去の作品より質・量ともに凌駕するカラマーゾフの兄弟を書いたドストエフスキー
- 大概の作家は50代で成熟し、枯れる。そういう作家を見るたび、悔しかっただろうな、と思う。無駄な時間を過ごすわけには行かない、と。
- 総合小説とはとにかく長いこと、とにかく重いこと いろんなファクターが詰まっているるつぼのような小説
- 今、新作を書いている。二年前から毎日四五時間。中断は十〜二十日くらいしかなかったはず
- この歳になるとカウントダウンに入ってしまう。あと残り長編が何冊かが見えてくる。余計なことをしている暇が現実的に無い。
- 書きたくないときは書かない。だから机に向かう時は必ず書ける。書く体勢が出来ているから。
- 書きたくないときは翻訳してます。ビール会社が副業にウーロン茶つくってるみたいに。
- エッセイは引き出しをからにしてしまうから書きたくない。長編にぶちこみたい。
- 新作について。総合小説ではないにしても近いかも。ニュークリア・エイジについて。失敗作かもしれないが志を買う。
- 分厚い本について。ピンチョンについて
- 作家というもの。再び健康と魂の不健全さについて。小説執筆に限って、プログラマーとゲーマーが同居している。右手で作りながら左手で解く
- 机を離れると普通の人間です。なぜサインを欲しがったりするのだろうと不思議
- 90年代アメリカにおいて日本は文化的に尊敬されていなかった。文化力は大事だと思った。
- バランスは大事。あと、ものを作る人間として欲深い。
- 20代ずっと肉体労働してて29歳のある日球場で野球見てたら突然小説を書こうと思って書いた
- 30過ぎの受賞の際「四十までにはまともなものが書きたい」といったらしい。覚えてないけど。欲深なんです。
- 注文を受けて小説は書かないを通している いい距離感をたもつ
- 村上春樹は禁忌語みたい
- (表現は悪いけど)作家は読者に麻薬を打っているようなもの
- 著者は表に出なくていいと思っている。本だけで、文章だけで勝負するのが王道だろう、と
- 次回作、新作について。胸をはって面白いですといえない。おっかなくて。
- 半年分ぐらいいっぺんに喋った気がするなあ
感想。感想?そんなこと言われても。
おのれのスタイルを自ら作り上げ突き進んできた
ひとりの偉大な芸人のロングインタビューにどうツッコめと。
これは彼のやり方。彼の特性にカスタマイズされた成功事例。俺に流用できる部分はほぼない。
創作術というものは本人にしか意味がなく応用は効かない これまでの作品について作者の思いや意図など知ったことではない
とにかく俺はぐいぐい引き込まれて読みふけったし、
俺は村上春樹というひとをよく知らないのでこういうものか、と思いながら読んだ
アンダーグラウンドのくだりは感心した。
すこし昔のことを書く。
俺がガキのころ一回り以上年上のいとこが引越しか結婚かなにがでいらなくなった本を段ボールでくれた
そのなかに風の歌を聴けがあった*1。数年前話題になったノルウェイの森を書いたひと、くらいの記憶があったので読んでみた
以前にも書いたが、文章の切れ味は天才的だがヴォネガットの劣化コピーだと感じた記憶がある
そこから2,3冊初期の作品を読んだはずだ。たぶん。覚えていない。
記憶に残らないものだったようだ。おぼろげにネズミやピンボールが片隅にある
今回このロングインタビューを読んで、ちょっと時系列に読んでみてもいいなあと思いました。
なんか面白そうだったから。
俺が義務教育の頃小説を書き始めたのは、作家には定年がなく死ぬまで稼げると考えたからだった。
だがすぐに、自分は他人を楽しませるという気持ちがこれっぽっちもないことに気づいた。
おはなし作り(特に構成)が壮絶に苦手なことにも。
それでも他にやることがなかったので仕方なく書き続けた。文章を書く作業自体は楽しかった。
知識や経験は勿論、なにより構成力がないので長編が書けない。
数年そんなことやってて2,3の小説は買い手がついた*2が、その際売れたものはすべて一人称だった。
俺はなんとか三人称の小説を書きたいと足掻いてみたが結果は出なかった。
田舎を出て他にやることが見つかって小説を書くのは自然消滅してしまったが、三人称の難しさは身に沁みた。
知り合いがしばらく前に「次回作は主人公男、三人称」と宣言したのを聞いておっかねぇなあと感嘆した*3。
村上春樹はタフだ。アスリート型と表現されていたが、とにかく尋常ではない。
「20年掛かってやっと三人称が書けた」うーーん。
日本の文化力。
総合小説か。火の鳥やワンピースより面白いといいな*4
カラマーゾフの柱は神と人間だった*5。
理想と葛藤と言い換えてもいい。
さて21世紀になったいま、どんな物語を紡いでくれるだろう。
書き手の規律など知ったことではない
そう読者はざんこくだ
それが彼を助けてきたのだろう