恩師逝く

退官記念講演
壇上に上がり開口一番
「皆さん、この歳まで学問してきましたがね。
いやあ、漢文、あれはわからんですわ」
と教授は朗らかに言い放った。
凍てつく会場
唖然・怪訝とする聴衆
俺はひとり声を出さずに手を打って喜んでた。大喝采
「でもまあ私も教授なんで君ら生徒にわかってるふりして漢文教えなきゃなんない。商売だし」
話は氏の先輩教授の話題に。
真夜中に電話で叩き起こされてどうしたんですかと先輩教授に聞いたら、20年考え続けたある漢字一文字の意味がやっと分かった!と雄叫び延々と説明を始めたそうだ。
教授は閉口しながら学問は恐ろしいなあと震えていたそうである。
まあそういう世界だけど、君たち好きにやんなさい。
俺もう教授じゃなくなるからどーでもいいや
にこにこしてた


うむ。
道程遥かなり


昨日、俺が勝手に恩師認定させて頂いていたその教授が亡くなられたと知った。
…。


恩師などと言っているが俺にそんな資格はない。
指導教授でもなかった。
でも一年間マンツーマンで指導していただいた。
俺はその授業が大好きだった。
水を向けると先生はいろいろお話しをしてくださった。
学会の体質
故郷北海道のこと
15で荒くれ木こりたちを率いなくてはいけなくなったこと
都内のど真ん中に校舎を維持したこと
独特な学科名のこだわり
学問の話はほぼなかった
1時間半の授業で漢文読んでたのは30分くらい
俺はこの教授がすごい好きになって、前述の通りこころのなかで勝手に恩師と呼んでいた
口には出さなかった。
学問の世界で「師匠」「弟子」という言葉は、軽くない。


伝えてなかったけど
先生大好きだったんだ
ありがとうございました
ひねくれものの俺が
心底尊敬してた数少ないおとなのひとりでした
こんなおとながいたことがすごくうれしかったんです
偉い立場なのに雲の上のひとなのに、自由なタコ親父でした
あなたが死んで俺は悲しい
悲しいよう