それでもボクはやってない:Welcome to this crazy time このイカれた時代へようこそ

監督・脚本:周防正行
金子徹平:加瀬亮
須藤莉子弁護士:瀬戸朝香
荒川正義主任弁護人:役所広司
斉藤達雄(友人):山本耕史
母:もたいまさこ

感想。評価の遥か以前に、あなた、まだこの映画を見ていなくて逮捕されたことも裁判されたこともないあなた、あなたは見ておいたほうがいい。あなたが生活しているこの国がどうやってひとを裁いているかを知った方がいい。
この国は狂っている。

keep you burning 駆け抜けて
この腐敗と自由と暴力の真っ只中


THAT'S ENTERTAINMENT! なんという娯楽作品。
逮捕。拘留、拘置所、取調べ、調書。裁判。
俺は何一つ知らなかった。多少断片的に聞きかじった程度だ。この映画で描かれた様子がどこまで恣意的なものかはわからない。だがそれほど誇張され捻じ曲げられたものとも思えない。
さて。これほど大事な手続きを、一体誰が教えてくれただろうか。何故俺はこの歳になってユーモアすら交えた娯楽映画によってこんなクリティカルな一連の流れを初めて知らされねばならないのか。知らない者が悪いのだ。そういうことなのだろう。


支援者。親身になってくれる弁護士。丁寧な裁判官。目撃者。検証。逮捕→取調べ→公判一回目→十二回目という「流れ作業」のなか、様々なイベントが訪れる。この脚本の見事さよ。法廷においてただだらだらと続く遣り取りの数々。疲弊し精神が磨耗する主人公たち。役者の演技も光る*1


誰が悪いのか?誰を憎むべきなのか?


取調べの様子はすべて録画すべきである。それは物理的に不可能か。いや可能なはずだ。Nシステムなんぞを大威張りで導入する暇があったらいくらでも改竄可能な調書など打ち捨てて余さず記録に残す方が理に適っている。


テーマの持つ強烈な社会性とメッセージ、二転三転するストーリー、途切れない緊張感と徒労感、やるせなさやり場のない怒り、あっという間の2時間半。


退屈な映画?眠くなるような?ひとりの男の生活と人生が一年掛けて崩壊する様があまりにも馬鹿馬鹿しく地味なので?
そうともつまらない映画だ。他人の人生が冤罪でめちゃめちゃになることのどこが面白いものか。結論など最初から出ているのだ。
痴漢をした証拠は、ない。そのような証拠を「示す必要がない」。しかし被告人は「痴漢をしていない証明」をしなければ有罪である。
法廷というものは論理が通じない場所だそうだ。

作中こんな会話がある。「裁判官が無罪を認めて喜ぶのは誰か?被告人だ。検察と警察は面子が潰れる。検察と警察、つまり国家権力を敵に回すということだ。有罪にするのが人情というものだろう。無実を有罪にしたって被告人が泣くだけ。どうということはない」


ひとはひとを裁けない。当然である。ただのにんげんにそのような権利はない。ただ善く法の理念のみがひとを裁きうる。しかし法には人格がない。裁判官は法の代理人である。法廷は劇場である。舞台上の配置には意味がある。裁判官は「高いところにいる」。高いところから現れ、高いところに位置し、高いところに帰っていく。終始下に下りることはない。思うにこれは劇場において他の人々より上位の存在として機能することを表すのだろう。
神である。
なんと矮小な神がいたものだ。


俺はこの映画をもう二度と見たくない。語りたくもないし思い出したくもない。本当に忘れたい。
誰か嘘だといってくれ。これが単なるフィクション、出鱈目で虚構に満ちたホラーだと。
日本の真実ではないと。

*1:しかし俺はどうしてもたいまさこの演技が嫌いなのだろう。台詞の呼吸が嫌。お辞儀をみると虫唾が走る。素晴らしい演技力でいい女優さんなのになあ…