帰省8 芸術と食欲の秋2

神水

高知の企業に明神水産という鰹屋がある
俺と嫁さんは三年前両親と共に馬路村を訪れた。ゆずの加工に活路を見出した同村の軌跡を追ううちにデザイナー梅原真さんを知った。

キャッチコピーは「漁師が釣って、漁師が焼いた」。
その夜、妹が店を調べて明神と呟いた。明神?俺と嫁さんは光の速さで食い付いた。聞き覚えが、そう、明神水産。あそこの直営店。よしそこにしよう。

漁師酒場・明神

系列店は市内に三店舗。最終的に漁師酒場・明神で予約。

明神丸、ではなく2階にある明神の方。席はL字カウンターの一辺、藁焼きの目の前であった。いくつか注文し三人でおしゃべりしながら見るともなく厨房を見ていたら、突然天井に届かんばかりに火の手が上がった。藁が燃えあがった。鉄串にぶっさした鰹のブロックが炎に突っ込まれる。唖然とする我々。火力が弱まらないよう手早く藁が継ぎ足され鰹が炙られる。燃えて舞い散る藁。ガラス越しの熱気が顔を叩く。串が抜かれ熱々の鰹を見事な手さばきでスライス、盛りつけ。目と脳が旨さを感知した。ごくりと喉が鳴る。運ばれてくる藁焼き鰹のタタキ。塩。嫁さんが食い妹が食い俺が食う。ううと唸る。嫁さんがいままで食べたタタキはなんだったのかと言う。もう、他のが食えない。
それから何度となく藁焼きを見るが、何度見てもすさまじい。ついおおと声が漏れる。夢見心地の食事でした。満腹、満足。


たまたまかもしれないが、ここは店員が良かった。これは大切なことです。ある意味メシが美味い以上に重要かも知れない。男性も女性も皆元気で明るくて応対がいい。気配りや言葉遣い、それに機転。
俺は再び郷里に帰る時、ここを訪れるだろう。

「一本釣りカツオ」を世界に

入店する前若干不安げだった嫁さんも満足して頂いたご様子。
なお、不安げだった理由はのちに判明した。

嫁さんはこの記事をしっかりと記憶していたのだ。
なるほど。げに会社とは一筋縄ではいかない。複雑な気持ちを覚えた。
ともかく、我々はしあわせな時間を過ごし対価に見合った経験を得た。
あの日あの時のあの味と店舗は高く評価する。
以上。