「マグネシウム文明論」感想:今ある技術の改良だけで問題を解決しよう

マグネシウム文明論 (PHP新書)

マグネシウム文明論 (PHP新書)

レーザーってなんですか

後輩が「レーザーと聞くと、男の心はときめくものなのです。」と引用していた文章に感銘を受け記憶していた。なるほどいい紹介の仕方だ。
男と生まれたからにはぶっといレーザーをぶっぱなしてナンボである。バーチャロンするならライデン一択である。
本書の教授はCIP法という手法を考案した方だそうだ。初めて聞きました申し訳ない。

  • 太陽光でレーザーを発振。装置は低コスト、太陽光なのでタダ。出力は改良中で目処は立っている。
  • 金属の値段には精錬コストが含まれる。レーザーを用いれば精錬の工数を減らせるので金属を安く出来る。
  • マグネシウムをエネルギー源と見た場合、問題はコストだけだった。これを太陽光励起レーザーで解決する。

エネルギー問題。
誰かが「新しいエネルギー源」を発見するものだとぼんやり想像していたし、実際そう言う角度の研究もいろいろあるみたい。
でもそうではなく、従来からよく知られた物質で解決の可能性があるというビジョンが示された。
その方面に全く無関心であった俺はすっかり驚いてしまった。
なぜ「製鉄工場はあれほど大規模な施設でなければならないのか」本書は答えてくれている。

電気ってなんですか

喧伝されている水素には、可搬性・貯蔵性の問題がある。
こうしてみると、石油石炭がいかに優れたエネルギー源であったかが思い知らされる。
さらに唸ったのは電気の性質の致命的欠点だ。

  • 「貯められない」
  • 「可搬性が低い(送電で減衰する、インフラ投資が莫大)」

生態系は閉鎖系ではない。太陽光を入力にして成り立つ。
同じような発想の太陽光「発電」は、電気の上記性質がネックであった。
自然エネルギー系の問題はとどのつまりすべてこの電気の問題である。
太陽のエネルギーを一点集中のレーザー光にまとめて、マグネシウム*1封入してしまえ。
おおすげえ。なんとかなりそう。

うまい話ってなんですか

本書は「この計画にお金を出して下さい」とは言っていない。
本書後半の「とりあえず海水を淡水にして資金を稼ぐべ。マグネシウムもたくさん含まれてるしな」的経済感覚。
絵に描いた餅がこれほど美味そうに見えたことはない。
俺はこの「話」に騙されてみたい。とにかくやたらと筋が通っていて心地よい。
詐欺の最大の矛盾は「そんなに儲かるなら、どうして本人がやらないのか?」だ
しかし実際この教授は自分でやるつもりだ。儲ける気満々である。稼いだ金でマグネシウム循環社会を実現させるつもりなのだ。市場原理を味方につけてそれをやり遂げる態度も好感が持てる。
すくなくとも水ビジネスは現実に回り始めている。これは絵空事ではない。日本の一部の水道運営にだって、外資がもう入りこんでる。


では出資を目的としていない本書は何のために書かれたのか。ただ、知って理解して欲しいということだろう。
数十年間氏が苦しんだのは周囲の無理解だった。


俺はこのビジョンを応援する。出来れば一枚噛んで大もうけしたい。噛めそうにないから紹介する。
望むのは夢の新エネルギーではなく、現代文明を支える程度のささやかでこじんまりとしたエネルギーなのだ。
足らぬ足らぬは工夫が足らぬ。ちょっと考えればものすごい新技術・新発見など必要なく達成できるはず、という話し。

*1:製錬という形で論理的に