同人誌「RE:EV」感想

冬コミで買い求めたエヴァ批評本に一言二言感想などを。
アンケート、インタビューは割愛します

【巻頭言】あれを見て何かを思ったはずなんだ、僕はどうしてもそれを言葉にしたい / さやわか

何かを思わせずにはいられない、そんな作品じゃなかったですか。

同感です。

【レポート】一四歳女子の観た新劇場版ヱヴァンゲリヲン:破 / 飯田一史

中学生たちの意見感想だけを抜き出します

  • 2009年現在、東京郊外公立中学に通う14才二年生女子複数の、エヴァ破などについての感想
  • 岡田斗司夫を知らない
  • エヴァ新劇場版の評価は総じて高い
  • TV版のシンジはむかつく(軽いニュアンス)
  • マリについてはおおむね高評価(鑑賞後「かわいい」)
  • シンジやアスカについて、同年齢としての共感は薄い模様
  • 夏エヴァの評価が低い。大ざっぱに 破>貞本エヴァ、TV版>夏エヴァ らしい。
  • GAINAX作品という意識がない。庵野秀明をはじめとするガイナのスタッフを知らない(興味がない?)。貞本義行は漫画家・キャラデザのひとと認識。
  • 同じくシャフトに対しても反応がうすい。例外は京都アニメーション
  • 好きな作品 銀魂 生徒会の一存 ひぐらし(ゲームは未プレイ)
  • エヴァ鑑賞のきっかけはyoutube。観る基準はクラスで話題になるかニコニコ動画で知るか。
  • オタクがクラスにある程度認知されている。引け目を感じている様子はない

【論考】エヴァを壊すこと、鏡を割らないでいること ――『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』について / 長岡司英

  • 使徒は殲滅されるために存在する
  • 使徒の個別の出現に謎はない。にもかかわらず意味のある謎を生産した。
  • これが旧エヴァの物語的困難である。
  • 新作はこの旧作の困難を引継ぎつつ違う物を作り出そうとしている
  • 新作は旧作に対して新しさでなく違うこと・示差性を持つ。
  • 旧作を参照しつつ上書きしている
  • 旧作の再生産でなく、違う世界と信じ込ませるための方法「いなかった人間がいる」。マリである。
  • マリはフィルムの中で一度も名前を呼ばれなかった
  • マリの盗みと乗っ取りについて
  • シンジの旧作の影の中にない新しい決断について
  • シンジの右手と左手。新しい決断ではなく単なる否定ではないか。
  • 次作は単に新規なドラマのエンターテイメントにならないだろう

旧作エヴァの抱える困難と新劇場版の性格が新しさではなく違いであることの指摘。その表れとしてのマリ、シンジの決断の意味、次作への物語的予見。
興味深く読ませて貰いました。いくつかの指摘には唸らされた。実に細かいところを注意深く観ている。神は細部に宿り給う。
俺個人はシンジの決断をマリよりも父ゲンドウとの関わりに見出しているので、全体的に承服できないけれど、この緻密で大胆な考察は素晴らしい

【論考】私たちの望むものは、くりかえすことではなく / 七里

  • 旧作のアスカの酷い扱い。名前、恋情、愛機、生活者の精彩、新作でさらに酷くなる扱いについて。
  • アスカの声優宮村優子について
  • 他者への倫理からキャラの論理へという変化
  • 破における、チルドレンという言葉や十四歳の特殊性の消失
  • 「子供と大人」という対立の無効性
  • 『破』における人間性と倫理の問題の退潮を象徴しているのは、やはりマリなのである
  • 主題が無効化され残る物語の構造。内容を横滑りさせる換喩的操作
  • 庵野秀明が既存作品で見せた山場での隠喩的想像力の爆発。
  • ところが破においては隠喩より、構造を保持したままの換喩に徹している。
  • 反復・繰り返し。同時に新たに前に進むこと。破における前進は綾波レイ象徴される
  • フェイクの中のオリジナル
  • 新劇場版は起源を新たに未来に迎えるため反復されてある場所なのだ

旧作で強調されている主題が弱まっていること、旧作を置き換えつつ物語なおしているがそれは新しさのためであること。
この本の中で俺の考えに一番近い論考でした。
ひとつ異を唱えるとするなら、俺は破のアスカが酷い扱いを受けていると考えていません。むしろ彼女を救ったと思っている。

【論考】坂本真綾――真希波・マリ・イラストリアスへの長い道 / 飯田一史

声優さんに特化しており、あまりにも内容が特殊すぎて俺にはコメントが出来ません。。。。
ちなみに俺はトップ2に乗れなかった*1オールドタイプだが夏エヴァより破を好みます。
またトップ2は鶴巻氏の作品であり、新劇場版を庵野秀明氏の作品だと捉えています。
これらの点で上記論考と噛みあわないことこの上ない。
飯田さんは着眼点が独特です。

【論考】ループの詐術に抗い、『EOE』を肯定すること / 前島賢

  • 論者は中学二年生で観た夏エヴァが最高であり、エヴァンゲリオンという物語は完璧に完結していると考える。
  • エンターテイメントであることが成長であるとはどういうことなのか
  • 新世紀の今では単にエンタメアニメに触れるだけで、「成長」したり「大人」になれる
  • EOEがバッドエンドと判断されるのは許せない
  • オレがエヴァンゲリオン

作家が12年経って同じレベルの作品を発表したら資質を疑われる。
物語はエンターテイメントを目指す。人生は悲劇であるからだ。
エヴァンゲリオンは中学二年生の日記ではなくエンターテイメント性を持っていた。新劇場版においてその比重が変わり二項が釣り合った。だから成長である。
オレは14才だと宣言して、世間が27のあなたをそのように扱うかどうか試してみればいい。
少なくとも俺は扱わない。


上記論考はこの本の中でもっとも面白かったし印象に残った。身も世もなく(しかし芸達者に)主張するその必死さは尊い
EOEは俺も素晴らしいと考えている。バッドエンドだとも思わない。庵野の身を切るような叫び。
この文章は言い過ぎだ。言い過ぎだが論理と理論に逃げ込んだチキンよりも素っ裸で心震わせる。
とりあえず落ち着け。誰も君に関心などないから。

【論考】アイ・ケア・ビコーズ・ユー・ドゥー/I Care Because You Do / 西島大介

俺は凹村戦争を読んで以来、気が変わるまでは氏に言及しないことにしているので言及しない。

【論考】「新本格エヴァ」試論 / 蔓葉信博

  • 80年代後半から90年代前半について。新本格登場、世相・代表的事件を中心に。謎解きの隆盛。
  • エヴァンゲリオンの持つ謎と推理。ひとつのシナリオが全世界を律する欲望。世界の謎。
  • 次作に推理を促す仕組みを垣間見られるか。期待する。

秘密=真実を知りたい。陰謀史観とは、原因が真実があるに違いないという信仰である。犯人がいなければならない。それは論理と計算と科学で導かれなければならない。
事象には意味がなければならないとする態度。
にんげんには物語が必要だ。
それは何故でしょう。*2




腕に覚えの強者たちが一堂に会して技比べ。1000円の価値は優にありました。感謝。


そういえばこれらのテキスト中、誰も戦闘とあの歌に言及しなかったのは意外だった。
目立ちあからさまに過ぎて無視したか、いつもの過剰な演出だと一笑に付したか。
でもエヴァンゲリオンとはその過剰性そのものではなかったか。
俺はあれ重要だと思うんだけど。

*1:4話だけで十分。OP・EDは良作

*2:ていうかエヴァンゲリオン全体を論ずる気なのねwびっくりした