国のない男 感想
- 作者: カートヴォネガット,Kurt Vonnegut,金原瑞人
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2007/07/25
- メディア: ハードカバー
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あああなた
そんなに怒らないで
泣かないで
俺は悲しい
初期のヴォネガット作品が好きである。
やさしさと笑いに満ちて、美しい悲劇のなかに氏の温かい眼差しが感じられた*1。
中期以降の作品があまり好きではない。
社会や生やにんげんの悲しみを前に氏は絶望し*2、一時持ち直したように見えたが*3、ついには静かに諦めてしまったからだ*4。
後年の作品内の笑いは痛々しくて笑えないことが多かったように思う
本書はカート・ヴォネガット最後のエッセイ集である。
わたしも人類を見限ることにした。
なんと絶望的な宣言。
これをあのおせっかい焼きのヴォネガットが言ったのだ。
誰が文句を言えよう
恐ろしい
本書を読む前、ここでないどこかで「(俺はこの本を)正直読むのが怖い」と洩らした。
予感があったからだ。
氏の小説はほぼ読んでいる。3年前、ネットで翻訳されたコラムも読んでいる*5。SFマガジン9月号のインタヴューも読んだ。
それらから漠然と浮かび上がってくる思い、「ヴォネガットはもう俺たちを見捨ててしまったのではないか?」
その姿に夏目漱石が被る。
初期のユーモアとペーソス。
諦観が影を落とす後期作品。
だが漱石は幸せなことにたった10年しか作家を張っていない。
50歳にもならずに亡くなった。
ヴォネガットは50年以上作家を続けた。
84歳までこの世のなかを見てきた。
本書の表紙。
ヴォネガット正面から大写し。
好奇心いたずらごころがきらきらひかる瞳でじっとこちらを見つめる眼差し。
男は必死に訴えた。
笑いで包んでアメリカをにんげんたちを叱咤した。
時に絶望のあまり怒り狂った。
その激昂は、だが、神のいかずちだったろうか
それとも街角の小汚い老人の世迷言だったろうか。
でも愛し合うことだけがどうしてもやめられない
…気安く愛を口にするんじゃねェ
偉大なクエスチョン・マンは偉大な怒りの使徒となった。
不動尊の如く力ずくでもひとびとを救わんとする憤怒の鬼。
俺はそのこころに涙する。
多くのひとびとがそんな真剣な彼に対して、困った苦笑を浮かべ肩を竦めた。
俺はその構図に涙する。
底なしの愚かさだ。
これがにんげんだ。
これが俺たちだ。
俺たちはあんなにも親身になってくれたヴォネガット無しで、ひとり立ちしなければならんのだ。
泣いている暇はない
なんてったって、親切でなきゃいけないよ