寸劇 国のない男

国のない男

国のない男


“彼はもう称賛なんかいらなかった”
“評価も売り上げもどうでもよかった”
“いやむしろ、多くのひとびとが自分の考えを読んでくれているはずなのに、これはどうしたことだ?”


ヴォネガット「なあみんな。頼むからちゃんと読んでくれ」
ひとびと「ああヴォネガットさん、みんなあなたの作品を読んでますとも。素晴らしいですね。見てくださいこの書評。ベストセラー間違いなしですよ」
ヴォネガット「違うそうじゃない。私は、ちゃんと、読んで欲しいんだ」
ひとびと(曖昧な笑顔)
ヴォネガット「おい聞いてるのか、私は…」
ひとびと「ああヴォネガットさん、素晴らしい文章ですね軽妙で含蓄があり皮肉が効いてて現代への鋭い批評眼をお持ちだ。あなたこそアメリカを代表する作家、アメリカの良心ですよ、あなたに神のお恵みを」
ヴォネガット「…」
「私は」
ひとびと「あなたは我々の誇りです。みんなあなたのファンです。どうされました?」

(立ち尽くすヴォネガット
ヴォネガット「かつて私の作品は頭のおかしいティーンエイジャーしか読んでくれなかった。今多くの読者が読んでくれる」
ファン「ああヴォネガットさん、あなたのファンです小説全て読んでます、あなたは僕を救ってくれた、あなたは僕の教祖だ」
ヴォネガット、ファンをみつめて)
ヴォネガット「だったら何故。何故そのようにしない。そのように生きない。ひとにやさしくしない」
(戸惑うファンいかに自分がヴォネガットを好きか喋り続ける)
(響き渡る大新聞、辛口批評家、有名タレント、有力誌の絶賛)
ヴォネガット「誰も私を…」
「読まれているからこそ私は孤独だ」
(退場)