映画「春との旅」感想

※ネタバレ要素あり。注意。

監督 : 小林政広


じいさん : 仲代達矢
孫娘 : 徳永えり

感想。人生のろくでもなさを上手に描いた佳作。非常に欠点が少ない。


あらすじ。じいさんと孫娘が、じいさんの兄弟に頼み事をしに回る。
映画のタイトルは「春との旅」。祖父が孫娘・春と旅をする映画だ。

登場人物 じいさん

主人公のひとり、仲代達矢演じるじいさんの造形が独特である。
頑固で意気地なし、甘ったれで夢見がち、わがままで気弱、なんだか列挙すると意味不明の人物なのだが実際意味不明のじいさんなのだからしょうがない。
元漁師で現在片足が不自由な彼は兄弟たちから一言でいうと嫌われている。
じいさんの兄貴は彼を煙たがっている。老人ホーム。
じいさんの姉さんは彼を叱咤する。旅館の後継者。
じいさんの弟1は見つからない。年賀状。
じいさんの弟2は彼が大嫌い。ポカポカポカ。
孫娘はその一部始終を目撃する

登場人物 孫娘・春

御年19歳の孫娘である。高校を出て小学校で働いていた。その職場が廃校になったのが物語の発端である。
孫娘はひょこたんひょこたん歩く。体を揺らしながら。きれいにまっすぐ進まない。
不機嫌そうな顔。むくれたような表情。にらみつけるような顔色をうかがっているような。
たまにしゃべれば口をつきだすように刺々しい言葉。
演じる徳永えりはフラガールで登場は短いながら強烈な印象を残した主人公の親友を演じた彼女だ。
孫娘は不意に爆発するような大声を出す。不安定で縛られて不満と決意にどうしたらいいかわからない彼女の発露である。
それは痛々しくいじましい。

VS!

じいさんと孫の旅は続く。このふたりの距離感は本当にわからない。利用しているとか支配しているとか、そんな単純なものではなさそうだ。
離れられないことだけは はっきりしている。俺たちを含め、部外者の意見など関係ない。
そんなくそじじいと変な孫娘が、老人たちと対峙する。
ただでさえじいさんと確執のあった面々だ。最初っからこころを閉ざした探り合いのような会話が続く。
やっとエゴをぶつけ合い腹を割ったと思ったら、おのおのの事情が見えてくる。さすがのじいさんも黙って引き下がるしかない。
そのシークエンスにおける役者と役者のぶつかりあいがすごい。
この映画、いわゆる長回しが多く、切った張ったが一場面一呼吸で演じられる。
役者の力が露骨に現れるごまかしの効かない手法だけに観るものを圧倒する迫力と説得力が生まれる。いやおみごと。

私を夜の闇に包め

女たちは窓を開け放ち冷たい空気をいれ、男たちはそれに不平をもらしながらも口だけで制止することはない。
唯一孫娘はじいさんに対して窓を閉め切り部屋には影が差す。
じいさんは夢を追いかけた。夢のなかに生きる人だった。夢の中でしか生きられない人だった。
孫娘は理不尽のさなかにあってなおじいさんを包むあたたかい闇だった。
夢が終わるとき、老人は眠るのだ。光のなかで。