へうげもの9巻感想:生まれた生まれた何が生まれた?

へうげもの(9) (モーニング KC)

へうげもの(9) (モーニング KC)

あらすじ。星が一つ、暗い宇宙に生まれる。


感想。(深々と礼)


山田芳裕出世作デカスロン」のラスト
十種競技の神様と主人公牛乳屋の一騎打ち。
清明な境地に達し脳内で悟り物質*1がぶんぶん溢れ出る十種競技の神様、
その入神無敵の有様を見たとき、これは誰も勝てん。。と圧倒されたものだ
一方主人公牛乳屋に脳内は如何に?何を持って戦うのか?
彼は。。欲望が欲望が欲望が渦巻いて!
ついに神様を抜き去り勝利してしまった。
俺は愕然とした。
俺は生来欲望に肯定的ではない。
無いわけではないし否定するものではないが
理想とはしていない。
俺が信仰する道家は、欲望のコントロールを是とする。
その暴走は己を傷つけると強く戒める。
だからデカスロンは俺にとって衝撃だった。


あれから十数年。
へうげもの9巻の山場の一つは利休と古田織部の一騎打ちであった。
末期の茶席というが、要するに入室参禅である。
師匠と弟子の殺しあいだ
竜虎ふたりの怪物 得意の得物をひっさげていざ切り結ぶ

それがあなたなのです
お忘れなきよう

敬慕する師匠を介錯せざるを得ない異常な状況。
数寄と武人のジレンマが究極まで高まった瞬間に「壁ぇ!」の一言で
古田織部の境涯に風穴があく
一本筋が通り鏨をはめられた古田織部
あれほどまでに請い望んだ「おのれ」をついに小脇に抱えた
なんと噛んで含めるような老婆禅!


必死、ゆがみ、面白き

それでも追いつかんとす人間の必死さ

同じ劣情を求めたい

一見で腹がよじれる器ですと
悟り忘れ枯れた真人もほころばせる、
ひとが皆持つ今生のしがらみと苦悩を消し飛ばす
ひとのための美
長い道のり 失敗と後悔の果て 見よ
古田織部の功は成ったのだ

*1:サトリンである