ヴォネガット雑感

希望と絶望の作家であったと思う。心優しきニヒリストと呼ばれる氏の作品は常に同胞への愛情と人類社会への絶望が拮抗しせめぎあっていた。
ローズウォーターさんやタイタンが大好きなのは、希望分が多めに配合されているからだ。
「そういうものだ」に代表される透徹したニヒリズムを踏まえたうえで彼はなおおせっかいを焼いた。この呼吸は世界観を打ち砕ききった後自由に生きる力を取り戻す考え方とよく似ている。スローターハウス5に曰く

トラルファマドール星人は死体を見て、こう考えるだけである。死んだものは、この特定の瞬間には好ましからぬ状態にあるが、ほかの多くの瞬間には、良好な状態にあるのだ。

こういった死生観をもつトラルファマドール星人のサロが、なぜ力の限り「スキィィィィィィィップ!」と叫び「耐久性?それはいまにわかることだ」と行動したか。熱いこころを持っていたか。
そういうものではないからだ。


悲しみでひとは死なないが寂しさはひとを殺す。マルケスとオースターとヴォネガットにそれを教えてもらった。ひとにやさしく*1。老女は言った。

ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを。おやすみなさいまし。

俺も気が付いたらいつの間にか雷が止んでいたよ。
ああほんとうに。おやすみなさいまし。

*1:してもらえないからひとは死ぬ