新幹線大爆破 鑑賞

新幹線大爆破 [DVD]

新幹線大爆破 [DVD]

監督:佐藤純弥


沖田哲男:高倉健
古賀勝:山本圭
大城浩:織田あきら


倉持運転司令長:宇津井健
青木運転士:千葉真一
森本副運転士:小林稔
須永刑事部長:丹波哲郎
国鉄総裁:志村喬


あらすじ。東京発博多行き新幹線ひかり109号。発車直後、謎の男から「爆弾を仕掛けた。時速80km以下になると爆発する」と脅迫電話。長い一日が始まる。


感想。邦画娯楽映画ここに極まれり。空前絶後の傑作。


俺はどうやってこの作品を語れば良いだろう。
どうやって他人に勧めたら良いだろう。
どれだけ言葉を重ねても不安になる。だが書かずにはいられない。
まだこの映画を見ていないひとがいるだろうから。


以下ネタバレ要素有り、未見者注意。


完成度の点から言えば決して「完璧」な作品ではない。
安っぽいテレビドラマのような演出や回想シーン、高倉健の喋りの演技はあまり上手くないし、なにより強引でご都合主義な展開がちらほら。
だがそれがなんだというのだろう。
そういった演出、役者、その演技、ストーリーらの要素は本来作品の「面白さ」という目的を果たすための手段に過ぎない。
小説に必ずしも文章力が、漫画に必ずしも画力が必要なわけではないように、いくつかの瑕疵がむしろ作品の面白さに貢献する事は稀にではあるがありうる。


とにかく物語の密度が桁違い。坂道を転げるようにいや新幹線が疾走するような猛スピードで物事が展開する。
152分の間、次から次へと危機が訪れ伏線が張られ一難去ってまた一難、進行する計画、仕掛けられる罠、迫るタイムリミット、状況を知らされず恐怖と不安で暴動寸前の乗客、本部の指示に怒り狂う運転士、徐々に追い詰められ背景が明らかになる犯人達。
スリル。サスペンス。パニック。ドラマ。
社会。組織。逡巡と決断。緻密な計画。計画の修正。不測の事態。粘りの捜査。細い手がかり。
知恵を絞って状況の打破。深い絶望。一筋の希望。絶たれる解決策。


例えばそこに英雄的な行為などない。強いリーダーシップや的確な状況判断などない。各部署、各人、エゴ丸出しで対処は場当たり的、翻弄される宇津井健にしてもやってることは指示を新幹線運転士に伝え励ますだけ。
そんなひとびとのなか、高倉健演ずる沖田哲男だけが冷静に臨機応変に淡々と仕事を遂行する。だが彼も経験豊富な工作員では無い。
回想シーン内の沖田哲男はさして強くも頼りがいもない中年。強い虚無感が静かな悲しみが結果、彼を冷静で大胆な犯罪者に導いた。


新幹線内1500人の身勝手な混乱。功を焦り失敗を重ね面子を潰された怒りに自制を失いヒステリックに暴走を始める警察組織。この人間たちの醜さは余りにも「自然」で鬼気迫る。


ラストの飛行機と沖田哲男は、あまりのことに怒りとも悲しみとも遣る瀬無さともつかない激しい衝撃に見舞われた。屈指の名場面。


もちろん名作の誉れ高いので手にとった訳だが、よもや怪獣映画の延長のような娯楽パニック大作に過ぎない30年前の邦画がこれほど傑作だとは思わなかった。
打ちひしがれた。
手に汗握る攻防と息もつかせぬ展開のなかに浮かび上がるドラマ。
常に事態が動き続け、故に静の場面の引き立つ物語の押し引き。
瑣末な欠点すら魅力的。


ハラハラどきどきの娯楽作品はある。
人生の深さを垣間見せる文芸映画もある。
だが両者が高いレベルで分かちがたく融合した邦画を始めて見ました。
古臭くて受け付けないというひとはいるかもしれないけど、斜に構えず楽しんで欲しいです。