陰陽師阿倍晴明の呼び声

俺は怒っている怒り狂っている。
どいつもこいつも判で押したように「わからない」「理解できなかった」
敬して遠ざけるくらいなら、敬うな。
「わけが解らないのは知識が足りないから」?
「理解できなかったので何度か読み返そう」?
おいおいちょっと待て。一巻から陰陽道の深い知識を持って読んでいたのかよ。
七巻「天后」の巻は、「面白かった」だろう?「よく理解出来た」ではなくてさ。
「つまらない」んだよ十二巻十三巻は。
え、違う?むっとした?そりゃそうだ誰が言論統制したわけでもないのに大半の感想はつまらないではなく「わからなかった」だもんな。
おかしいだろう。違和感だろう。
じゃあ考えるんだよ!

4592132335陰陽師 (13)
岡野玲子
白泉社 2005-09-29

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オカルトを勉強しても百回読み返してもわかりゃしない。量的に理解できないのではなく質的に理解できないのだから。
つまらないのは漫画としてだ。
魔術としては、素晴らしい。
魔術!ハッハ!「何か物凄いこと」と言いかえておこう。
「何か物凄いこと」が繰り広げられている。ニューエイジやオームや言葉遊びやカルトや哲学やトンデモなぞと言う手垢のついた薄っぺらい戯言が裸足で逃げ出すほどの圧倒的で強烈で目を見張る奇跡が行われている。
なのに、漫画としてはつまらない。
凄いんだけど面白くない、これが違和感であり、わけのわからなさではあるまいか。
繰り返すが七巻を思い出そう。
囲碁で都を防御する、なんて滅茶苦茶な与太、エジプト人の生まれ変わりとどっこいどっこいだぜ。言葉の意味はよく分からんがとにかく何だか物凄い。
そして、漫画としても面白い。
これが傑作「天后」。
漫画としての面白さを「困難な問題を解決する」ことによるカタルシスと仮定してみよう。
容易ならぬ強大な敵が襲って来、それを知略と魔術を駆使して退ける。
常人には不可能な困難をやり遂げた彼のなんと鮮やかなことか。驚きと賞賛。知力・魔力に秀でた魔人阿倍晴明。
解決すべき問題はもちろん困難でないといけないが、それと同時に、読者の共感を呼ばねばならぬ。


十三巻には、「困難な問題」はあるが、それは晴明の極私的な渇望にすぎない。相当捻くれていて名付け難いが試みるならば「神(天)に愛されたい」と言ったところか。異論があろうが。
やれやれ。



あらすじ。一巻から高性能を誇っていた知力魔力担当の阿倍晴明は、武力担当博雅(実のところ天に愛されている)には一目置きつつうまいことやっていた。
彼が虚ろになった時、キャラの被っていた知力担当保憲と魔力担当真葛はやっと自由に活躍する空間が空いたのであり、そこに武力担当が加わって死者復活の秘儀が現象する。
今や白の魔法使いとなった晴明は、思いがけず待ち望んでいた神の愛を受け、狂える神己を忘れた神の名を取り戻し安んじる。
その女神は大地母神万物の母玄牝。忘神のイブは我に返り冬終わり春訪れ生命萌え出。
魔術師は荒野を耕し種を蒔きしかも果実を思わない。





外部からの不正侵入を相手に丁々発止遣り合っていたセキュリティソフトの大活劇に比べて、理由もよく分からぬままバージョンアップ(要アンインストール)しましたな物語が面白いわけがない。
モーツァルトクロウリーニーチェ?知るか。昔っから「隠された秘儀」の織り込まれた物語はつまらないと相場は決まっているのだ。
守護者の復活は(守護されるはずの)心技体の調和により果たされる。
完璧な調律は健やかな力強さに充実し、整えられていることすら意識しない。
BJの如き難病との切った張ったの闘病なく、滋養強壮により引きかけの風邪を治しました。
祝福を。
come on…
come on…



好意的に解釈すると「陰陽師」は漫画ではないと思う。相当の頻度で、つぎどこのどの言葉を読めばいいのかわからなかった。少女漫画的と言ってみても腑に落ちない。
言葉も絵も「配置」されていて間違いなくこれは護符だ。
一家に1セット、陰陽師全13巻をインストール。
なぜセキュリティソフトの仕組みを知る必要があるんだ。





まだ、「わからない」?
見落とすな。
「これは太陽の高貴なる魂の循環の物語である」。