求愛瞳孔反射感想

一週間前

俺は東京堂穂村弘さんたちの話を聞いた。トークが終わって休憩になったとき俺は穂村さんの本を何か買おうと思って販売コーナーに行った。白い文庫にこう書いてあった。

あした世界が
終わる日に
一緒に過ごす
人がいない

俺は変わったタイトルの本だなと思った。穂村さんは歌人なのでてっきり短歌の歌集が並んでいると思い込んでいたが、どうやら詩集のようである。出版社はどこだろうとページをめくったら求愛瞳孔反射というタイトルだった。どっちだ。

求愛瞳孔反射 (河出文庫)

求愛瞳孔反射 (河出文庫)

席に戻ってぱらぱらめくった。単語からして恋愛にまつわる詩集の印象を受けた。若いな20代かなと思った。それから感性は若いけど臆面もなく図々しいから30代前半かなと頭の中で訂正した。
実のところ俺は短歌が読みたかったと思っていたのですこしがっかりしたがこれはこの本への評価や感想とは何も関係ない。
順番が来て俺は穂村さんにサインをしてもらった。
帰りの電車でサインをみたら、何かの一節らしい文句が書かれていた。「ものすごいコーヒー味だぞ」。俺はびっくりしてものすごいコーヒー味なのか!と反芻した。何がもの凄かったのだろうとおろおろした。俺はイベント会場でコーヒーを飲んでいたのでコーヒーの香りがしたのだろうかと勘ぐった。
それから一週間俺はときどきこの文庫をたずさえ、暇なときはスマホをいじっていた。

今日

今日俺はお風呂に入る前、湯船で読む本を物色した。枕の上に置いてあったこの本に気が付いた。逡巡があり観念して俺は手に取った。
暖まりながら俺は本を読んだ。途中、「コーヒー味だぞ」が出てきた。ほうと俺は思い、すると推測するにサインを書いた全員に文中から無作為にフレーズを添えていたのかもしれない、と勝手に合点した。
俺は本を読み終わった。
俺はこの詩集をどう扱っていいかわからずに困った。
全編恋愛に関する詩が記載されていた。言葉はほぼ俺の上を素通りしていった。技巧的な部分には苦笑いし感性的な部分にはちょっと首をかしげた。
俺は「ねえ、一角獣顔を嘗めて」にはっとした。
この本はきっといい本で、言葉を慎重に選んでいると思う。気持ちもこもっていると思う。並びに関しては、あとがきによると編集者が上手に並べてくれたらしいことが書いてあったので、これにも意味があると思う。
10年前、20年前に俺が読んだらまた感想は違っていたのではないかと、そう思わせるみずみずしい詩集です。
たぶん俺はこの本を読むには歳を取り過ぎたし、共感するには俺の感性は貧しすぎた。
率直な感想としては「だって寒いんだもん…」の一言のほうが俺は好みです。
今度は短歌を読んでみたいと思います。