雑記 八にて

こっちに来てからずいぶんになる。きちんと寄席にいったことがなかった。
子供の頃から小説書きの元ネタとして落語のあらすじはいくつか目を通した。つねづね芸とは何だろう??と考えているので無精ながら落語のTVや映像などをつまみ食いくらいしてきた。2,3独演会に行ったような気もする。
マッサージ屋の先生が寄席にいけという。揉んでもらうたびに言う。笑いはライブじゃないと駄目だと言う。
得心がいったので嫁さんと魔界都市の老舗寄席に出向いた。
前までたどり着き様子をうかがうが白い扉に遮られ中の様子が分からない。まるで風俗店である。それこそ風俗店入店を迷うがごとく何度か往復しお茶など買い込んで意を決した。
こじんまりした場内は中央に座席、左右に桟敷があり日曜の午後結構な客入りである。すでに昼の部は始まって一時間を過ぎている。俺と嫁さんは左手の桟敷に案内される。桟敷は外から内に向かってなだらかに傾いていた。おおと感心した。
演者が尻餅をかけていた。ぺったんぺったんとかみさんのおしりを餅つきしておりその手付き表情を見てTVと同じだと思い、ここにはブラウン管もモニターも何もなく、つまり、生きた人間が現実に一連の動作をしていることを了解する。俺はそれに違和感を感じ、違和感を感じた自分を異常だと気付いて苦笑した。バーチャルに生きているとついつい現実が存在することを忘れてしまう。


古典がありギターがあり漫談、新作があり手品があり次から次へとおもしろおかしいじじばばが登場した。
どれも実戦で鍛えた間の取り方と客の釣り込み方があざやかであった。皮肉、毒舌、悪口まで笑いに変える。
にやにや笑い腹を抱えて笑いくすくす笑いよろこんで拍手する。まわりのお客さんもいい空気で大変楽しい時間を過ごした。
これはいいものだと思った。帰り道、電車の中、ご飯食べながら、帰宅後まで嫁さんとあれこれ思い出してはしゃべり笑った。
近いうちにまた行きたい。