桂米朝「米朝よもやま噺」感想

米朝よもやま噺 (朝日文庫)

米朝よもやま噺 (朝日文庫)

概要。落語家桂米朝師匠がよもやま噺に花を咲かせる。


感想。非常に栄養価の高い一品。酒の肴だとしたらずいぶん高価な珍味である。芸事にたずさわるひとは読んで損はないと思います。

内容について

御年80を越える*1人間国宝桂米朝師匠がラジオ番組をもっているそうで、それをもとに書き起こしまとめた本です。30分のトーク番組は特にルールもなく、米朝師匠が大ざっぱに誰それまたは何々についてしゃべろうと思っている、程度でスタートしあとは気の向くまま思い出すままアドリブでどんどんしゃべりたおす、そういう感じらしい。
そのためこの本に収められた話題は多岐にわたる。本業の落語や弟子あるいは同業の落語家はもちろん、
落語以外の芸人や諸芸について、演芸文化について、関西の新旧の風習、地理地名、歴史風土、また交流のある文化人たちのエピソード・思い出、映画や舞台、音楽、時事ネタ
時には教育方針、芸人の生き様、襲名や年季明けなどの節目節目について、自他の人生
雑多と言えばこれほど雑多にあちこち話題が飛ぶ本も珍しい。

特徴について

かたくるしい説教や理論はほとんどなし、時にしんみりさせる軽妙な口調にとぼけた洒落やオチを織り交ぜて、ぐいぐい読ませるそのリズム*2
志あるひとが読むならばここからたくさんのヒントを見つけ出せるのではないかと思う。
一貫した論文なわけではないからいわばフルコースの味わいとは決して言えないが、旬の一品のような滋味に溢れたいい話しばかりで、どこから読んでも面白い。


げに稀なおひと、稀な本である。疲れたときにでも是非ご一読を。

*1:1925年生まれだそうです

*2:再構成した聞き手さんの文章力も特筆に値する。見事!