映画「アンヴィル!」感想:「熱い三流なら 上等よ…!」

※ネタバレあり。注意。

原題:Anvil! The Story of Anvil
監督:サーシャ・ガヴァシ


リップス
ロブ・ライナー

あらすじ。カナダのヘヴィメタルバンド「アンヴィル(金床)」。リップスとロブは10代で出会い以降30年以上ヘヴィメタをやっている


感想。笑って、落ち込んで、泣いた。人生はままならない。そして生きるに値する。



君に夢はあるか夢はあるか

人間のこころを最も破壊するのは必要とされないことだ。*1
受け入れられず理解されず疎まれ それでもスターになるのだと奮起し続ける。
例えば、就職活動・転職活動の経験はおありだろうか。
何十通と書類を書き何十社と回り面接を受け何十通もの不採用通知を受けとる。
ほんの数ヶ月もやれば精神が破壊されかねない荒行である。
それというのも、「お前に価値はない」と突きつけられ続けるからだ。
アンヴィルの経歴は5年や10年ではない。30年だ。一時栄光があったそうだが、それにしたって、もう、まったく想像もつかない長期間だ。心が折れない方がどうかしている。
実際、彼らはどうかしている。その異能者が、どういうわけかふたり同世代で近所に住んでて出会い、
これまたどういうわけか同じ夢を同じ切実さで四半世紀以上見続けられるというこの事実。
まさか日常会話のはしばしを「ファッキン○○」でしゃべる50代が地球上にふたりもいるとは思わなかった。

今を生きているか

正しい人間………正しい人生なんて…!
ありはしないんだって…
そんなもの元々…!

彼らはアクションを起こす。当然だ高い目標があるのだから、リスクも負うし売り込みだってやる。
趣味や遊びでやっているつもりはないのだ。お金は稼げないけど。。。
そしてそのたびに、結果が帰ってくる。そう、期待通りではない結果が。*2
沈黙。「さあ次だ」と口にはすれど、俯き目を背け体を丸め。*3
そんな様を繰り返し見せられ続けるとどうなると思いますか?
怖くなるのだ。
当事者でもない一観客に過ぎない俺が、なんのリスクもないはずのスクリーンの前の部外者の日本人の俺が
もういい充分やった、すこし休もうと叫びたくなる。頑張った末に空振る姿を見て俺がしょんぼりする。それに耐えられなくて怖くて
あんたたちがやらなければ、俺が傷つくことがないと反射的に心が防御態勢をとるのだ。
「傷つくことを恐れはしない」? OK、ダグオン野郎。じゃあ「傷つき続けること」を恐れずにいられるか?

澄んだ瞳だけに映るブルースカイ

成功を目指すな……と言ってるんじゃない……!
その成否に囚われ……思い煩い……
止まってしまうこと……
熱を失ってしまうこと…
これがまずい……!こっちの方が問題だ…!

結末を言おう。この映画はハッピーエンドだ。もちろんアンヴィルというバンドが一躍シーンに躍り出てヒットを飛ばしビッグになるわけではないが。
彼らは彼らを暖かく応援する場に到着する。
俺はその信じられない光景を見て涙を流した。
本当に信じられなかった。だってどれだけ無視され無視され無視されてきたと思ってる。俺の心はすっかり荒み、きっと失敗するんだうまくいくわけがないと猜疑心のかたまりになってしまっていた。
今でも信じられねぇよファック。

いいじゃないか…!
三流で…!

しょうがねぇよ……!なんせバカだから…!





*1:「だれにとってもいちばん不幸なことがあるとしたら」「それはだれにもなにごとにも利用されないことである」

*2:まことに残念ながら今回は採用を見合わせたいと存じます。貴意に添えなくなりましたが、何卒ご了承下しますようお願い申し上げます。

*3:見覚えがあると思ったらロスト・イン・ラマンチャテリー・ギリアムがちょうどこんな感じだった。