おくりびと感想:「食うなら美味いほうがいい」

いい天気だ 映画館にて鑑賞

監督:滝田洋二郎


小林大悟本木雅弘
妻:広末涼子
社長:山崎努

感想。見てよかった。良作。


あらすじ。楽団が解散し田舎に帰った元チェロ奏者が、高給との募集広告に引かれて面接に行ったら業務内容もわからないまま即採用。その仕事は「納棺師」だった。


遺体を清め整え納棺する。その一部始終を山崎や本木が演じる。
無言で粛々と行われる一連の動作の説得力。
この一点だけでも、本作は観る価値があると断言してよい。
あとの要素はもう好みの問題である。
特殊な*1仕事に対する葛藤。誇り。蔑視。無理解。
感謝。


山形の風景。葬儀の様子。
ひとびとの容赦のない言葉
厳しい態度
噴き出す感情
かなしむひと泣くひと泣き笑うひと
身寄りのいないひと
川、田んぼ、雪
鳥、音楽


為すべきことが為され、完全に「死に」、区切りが付けられる。
ひとが死ぬ。納得のいかない不条理だ。にんげんはこれに耐えることが出来ないので社会的文化的儀式を経て死を段階的に受け入れる仕組みを作り上げたのだろうと思う。*2


昔、気合の入った禅マスターが病気になって薬を飲もうとしたら
弟子が「ひとは皆死ぬ。ましてや悟りを開いて死を恐れぬと嘯く禅坊主がなぜ薬を。死ぬのが怖い?」
じじいは答えて「これから海に潜りに向かう海女さんも、雨が降り出せば傘を差すよ」


なぜそれは為されるのか
「死にたくなきゃ食うしかない。食うなら美味いほうがいい」
「美味いな。困ったことに」


死ぬことが出来るのは生きた者のみであるため逆説的に、死を全うして初めてひとは他者のなかで生きられる。


奇麗事だけではない。楽でもない。*3
天の道理は待ってはくれぬ。
この世の制度も当てにはならぬ。
光と装い化粧する。
「ありがとう、ございました」

*1:「特殊な」?

*2:共同体とやらもそのような機能を持つとか中村の雄二郎さんがごにょごにょ

*3:この映画を観て俺は本当になにもかもアマチュアだなと打ちのめされた 情けない