小林信彦名人読了

志ん生、そして志ん朝 名人 (文春文庫)

志ん生、そして志ん朝 名人 (文春文庫)

このひとの芸人エッセーがなぜか好き。落語は活字でしか知らない俺が落語名人の本を読むのも不思議なものだ。
巻末の夏目漱石と落語は俺の持論とも近く大変エキサイティングでした。
小林信彦が芸に下す評価の迷いのなさ・苛烈さはちょっと真似できない。それでいて、論外から急に上手くなった芸人を驚きと共に見直す柔軟性もある。


本作品は年代とテーマでまとめたエッセー集。落語・江戸言葉・志ん朝古今亭志ん朝の死を知ったところから回想は始まる。志ん朝の父志ん生、特に戦後人気が出たころからの志ん生志ん朝、兄貴の馬生あたりを中心にあれこれ落語話が飛びまわる。
江戸言葉・東京下町の言葉と落語。俺にはあまりにも関わりがなくて苦笑いだが、作者が言うには、江戸前落語で操られていた江戸弁はとうに失われている。志ん生志ん朝の当時も失われかけていた。漱石にも息づいていたそのリズムと世界を、作者は偲ぶ。
原理的に共感できる接点が存在しないはずなのに、なにやらその思いは伝わるような気がする。読んでてほんのり幸せになる。不思議だなあ。


次はこの辺

寄生虫館物語―可愛く奇妙な虫たちの暮らし (文春文庫PLUS)

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