フラガール 感想
- 映画『フラガール』オフィシャルサイト
監督:李相日(リ・サンイル)
松雪泰子:平山まどか
蒼井優:谷川紀美子
徳永えり:木村早苗
豊川悦司:谷川洋二朗
山崎静代:熊野小百合
岸部一徳:吉本紀夫
富司純子:谷川千代
感想。これはすごい。傑作。娯楽作品かくあるべし。突出した点はないかもしれないが様々な要素が上手く噛み合っている。しかも華やかな広告とうらはらにテーマは案外重厚。
少し誉めすぎかもしれない。とにかく俺の好みだ。
あらすじ。昭和40年。福島県の閉山間際の炭鉱町でハワイアンセンターなるリゾート施設が計画され、集客の目玉のフラダンスを踊るダンサーの育成が始まる。果たしてハワイアンセンターは成功するか。
時代
始まってからすぐの風景を見ていただきたい。
100年の間に石炭が掘り尽くされた歪な鉱山。俺達の目にはバラックにしか見えない長屋の群れ(当然平屋)。カイジばりの炭鉱労働風景。朝から晩まで炭鉱にもぐるワイルドな男達。洗濯は盥に洗濯板の時代。
昭和40年といえば東京ですら今の俺がみたら失笑するだろう。ベトナム戦争が真っ最中であり、未だウルトラマンは現れず(放映開始は41年)、ドルがまだ固定相場制で1ドル360円だったわけ。沖縄返還はずっと先。
想像できますか?俺は出来ない。
背景
ダンサーは現地採用の方針である。というか、常磐ハワイアンセンターそのものが石炭の取れなくなった鉱山会社がリストラする炭鉱夫の受け皿に計画したという、夢も希望もない必死な代物だった。無論女の子達はこの鉱山町以外を知らない炭鉱夫の娘達である。
主人公達はわりとお気楽な理由でダンサーを志願するが、あとではいってきた女の子達は「親父が首になったから」などの理由で志願するのである。うわあ。
計画
フラダンスの教師は東京から招いた借金まみれで飲兵衛の女性ダンサー。100%金目当ての都落ちでやる気ゼロ。
リストラ寸前の炭鉱夫たちは、件の施設に億単位の投資がされていることを聞かされ激怒、「ハワイアンで炭鉱潰す気か」と食って掛かる。
ダンサー育成責任者の親父さんはいかにも中間管理職なさえない中年。
「常磐音楽舞踊学院」(笑)は体育館だか公民館だかよくわからない。
進捗
上映直後から、目を疑う侘しく貧しい土地柄(かつては栄えていたそうだが)と山を掘るより他に生き方を知らない労働者の絶望感に圧倒される。その描き方は実に丁寧でおそらく誇張がない。
立ち上がる大プロジェクト、常磐ハワイアンセンター。東北ふくすまに常夏のハワイを。
「無理。素人。ダンサーなめんな。東京からプロを引っ張って来い」「それじゃあ意味がない。地元民雇用創出の施設なんだから。先生頼むあの子等をプロにしてください」
石炭を掘っているとたまに温泉がでる。採掘には最悪の敵だが、鉱山資源の尽きた今これを逆手にとってリゾート施設を建設しよう。そこで解雇した社員(のごく一部)を再雇用しよう。
だんだん笑えなくなってくる。
技法
さて本作品で俺が感心したのは説明の少なさだ。俺は説明過剰な映像がダイッ嫌い。とくに邦画はしなくていい台詞をがんがん入れて興を殺ぐこと夥しい。観客なめんな。
フラガールは単語の過剰な説明がなく心情の説明がなく大変ここち良い。この監督はえらいひとだ。映像と演出と無言の演技でできちんと必要なことが伝わる。近年まれに見る手腕である。脱帽。
人物
松雪のダンス教師がいい。男湯にすっ飛んでいくシーンは惚れる。プロの心意気を叩き込む教師ぶりも素晴らしい。そしてじょじょに優しくなる様も。
豊川の炭鉱夫兄貴がいい。俺にとっては最近微妙な悪役ばかりが目についたが、この役はいい。このふたりに半端で露骨な恋愛が発生しないのもいい。それでいてふたりがそれとなく気になっているところがまたいい。ラストの通せんぼがいいんだこれが。
富司がいい。寝ずの番の芸事を何でもこなす師匠の妻から一転、気の荒い炭鉱町で婦人会会長をするほどの女傑だ。彼女が娘に小包を届ける場面がすごい。
主人公もその親友もいい。親友との別れは思わず涙目である。
親友の明るさ。冒頭ににこにこしながら「ダンサーにでもならないと一生ここを抜けられない」という重い発言。一度だけ彼女の家の内部が映される。その説得力。
いうまでもないが、しずちゃん素敵でした。彼女にほとんどしゃべらさなかった監督はやっぱりえらい。見事な話題づくりの客寄せパンダだが、なんと彼女はみんなのなかでもっとも最初に「プロ」になった。びっくり。