夏の100冊:補足

前述のように全感想や書影は面倒なのでやりません。その代わり選出作品でちょっと分かり難い辺りを補足し、これまで言及したことの無かった作品中心にいくつかコメントしたいと思います。

  • №3:風雲児たち
    • 「幕末編」は現在も連載中です。念頭にあるのは潮出版社希望コミックス全29巻(プラス外伝1巻)またはリイド社ワイド版20巻
    • 1979年から20数年にわたって書き継がれている作品だが、もちろんそれは平坦な道のりではない。なにより商業出版なのだから売れ行きや人気、出版社の意向など「作家が好きなものを好きに書いている」幻想を打ち砕く現実の数々をしたたかに切り抜け脅し透かししてここまで漕ぎ着けているわけだ。本当に歴史の教科書にした方がいい
  • №10:あっかんべェ一休
    • 入手が容易なのは漫画文庫版の上下巻だろう。しかし出来るならアフタヌーンKCデラックスの全四巻版がお薦め。単純に大きいし。そして四巻にわたる表紙がそれぞれ幼年期青年期壮年期老年期の一休宗純の「表情」なのがポイント。ゆっくりと人間味溢れるいい顔になっていくその様こそ師匠手塚のブッダ越えすら忘れる坂口氏の真骨頂
  • №21:2001夜物語
    • 連作短編といったほうが正解かもしれない。宇宙船が宇宙船を追い越した時のこの感動と切ない涙は一体SF以外のジャンルで味わうことなどあるだろうか
  • №25:オールドボーイ
    • 思えばこのブログを始めた最初期に紹介した漫画で当時はamazonでも在庫切れだった。そのしばらく後にうっかり韓国が映画化したときはその目の付け所に驚嘆したものだ。もっともその映画はまだみてないし、話によると漫画版とは違うラストだそうだが。あの「理由」はいまでもピカイチの傑作だと思っている。なんにせよ再評価はめでたいめでたい
  • №27:うしおととら
    • ほぼ全ての伏線を拾いきった奇跡の構成力
    • 贅沢をいうなら、超悪役「白面のもの」をもっと描きこんで欲しかったなあ、と。ラスト間際の白面のもののモノローグは、俺の臓腑に響いた。たった数ページ、完全無欠の悪が垣間見せた虚無。うしおが強靭な健やかさで陽と輝くほどそれは俺をなんともいえない気持ちにさせるのです。
  • №29:エルフ17
    • 死ぬほど好き。十数年前ワイド版が刊行されたときは狂喜した。「ラストまで大満足」とうたっておきながら、この作品は掲載誌廃刊によって未完です。
    • 「わたしは一向にかまわんッッ!! 」
  • №35:滅日
    • すまん入手困難その1。古本屋で探してください。全5巻。
  • №45:銀と金
    • 未完その2。文庫化もされて入手しやすくなりました。さあ読みましょう。福本作品は結局三つも入れてしまった。し、しかたなかったんや堪忍して!
    • 当時まったく面白くなかった麻雀漫画界で爆牌党出現まで唯一気を吐いていた「天」(でも面白いのは二巻以降)、名言だらけのカイジ、狂気の沙汰の「銀金」。涯だって悩んだんだ。
  • №48:スケバン刑事、№49:ピグマリオ
  • №51:王ドロボウJING
    • ボンボン掲載全七巻の方。僅かながら絵に幼さが残り絶妙。俺は「KING OF BANDIT JING」までいくと絵が上手すぎてついて行けなくなるのです
  • №52:死神くん
    • 大気圏突入話は俺が生まれて初めて物語でぼろ泣きした作品。レンズマン見ながら読んでたら涙で前が見えなくなった覚えがある。
    • 今気がついたがこのシーンはどうやら俺のその後の人生に無意識のうちに影響を与えまくっているようだ。
    • ああ同時期の漫画だとひらまつつとむ飛ぶ教室も入れたかったなあ…
  • №57:珍見異聞
    • そりゃあバジル氏だって傑作だ。入手度もそっちが上かもしれない。でもでもこっちなのだ。
  • №63:旧約聖書 創世記
    • どういうわけか藤原カムイは性にあわない。不思議である。ロトや雷火などよりも「彼方へ Dr.カントの宇宙創世記」や聖書のほうが好きなんだ
  • №64:企業戦士YAMAZAKI
    • 麺吉はまああれだけど、こちらはもっと評価されていいと思う。「ETRANGER」も。
  • №73:マリオネット師
    • 入手困難その2。当時(うーん今も?)エロ漫画雑誌より売れていなかったチャンピオンをこっそり影で支えていた佳作。小山田いくの恋愛物は今読むとたぶん恥ずかしくて死にそうになると思うがこの作品なら大丈夫
  • №94:こたつむり伝説
    • あずきちゃんは未読。こんなほのぼの切ない漫画を描いたのがサイバラいうところの「ちむら」(親から預かった香典を麻雀につっこむ馬鹿女)であるところがミソ。作品と作者の人格は無関係なのだと骨の髄まで認識せよ、人文系の悪しき幻想である
  • №95:はじめの一歩
    • 七十巻越えてもまったくダレないストーリー漫画。異常。精も根も尽き果て意識が飛び引き出しも弾薬も空になった極限のにんげんたちが何度も描かれる。その説得力たるや凄まじい。現役連載作品の中では間違いなく「最強」。漫画喫茶に一週間も通えば読破できる。まさしく夏休みにふさわしい。


思いもかけずあれこれ書いてしまった。数多の漫画のおかげで俺の人生は豊かになった。漫画家という商売がどんなに恐ろしいか、それこそ偽装請負の低賃金工員よりも悲惨かもしれない。死屍累々。読者を楽しませることに人生を賭けた(多くは敗れ去った)聖者達の爪あと。血まみれの宝石。
甲乙も無意味では絶対無いが、自分の足と嗅覚で宝物を掘り当てた満足感は本当に格別なのだ。
そうはいっても選出100作品のなかには友人達に教えてもらった傑作が五万とある。
ありがとう。
今度は俺が未読のひとびとに恩返し出来れば幸いである。