戦争の王

B000ENUYRWロード・オブ・ウォー
アンドリュー・ニコル ニコラス・ケイジ イーサン・ホーク
日活 2006-06-09

by G-Tools
劇場公開時激しく迷ってスルー。このたびDVDにて視聴。
感想。絶望し絶句する。しかも呆れたことに美しい。佳作。


これでも全然きれいに描かれているのだろう言うまでも無く。なんといっても独特の映像美。凝ったアングルに人工物の美しさと自然の美しさ。あと人間。
主人公は死の商人である。彼は最後まで死ぬことは無い。
ニコラス・ケイジという役者はよく知らんが、藤田まこと似の馬面かつ冴えない感じ。実に結構。
彼の表情は曰く言いがたい。奢ってはいないし開き直ってもおらず。悲しいような泣きそうなような。信念があるような無いような。諦めていたり達観している風でもない。徹底したリアリストかというとちょっと違う印象。
嘘はつくが行動に嘘がない。臆病で大胆で暴力と戦争を嫌悪する。
作中、取引のためアフリカに武器満載輸送機(無許可)で侵入、インターポールの手引きで不時着を余儀なくされる。苦肉の策で証拠隠滅のために道行く地元難民に無料で武器を放出するシーンがあるのだが。
輸送機の扉を開き、山と詰まれた各種火器。スーツ姿の主人公が難民に向かって手を鳴らし大声を張り上げる。
さあ無料サンプルなんだ。持って行ってくれ。どれがいい。手榴弾もある。弾も忘れるな。早い者勝ちだ。さあさあ。
その姿は圧巻で、法被を着た大型家電量販店員と寸分違わない。これが全てなのだ。欲しがる人に(安く大量に良い品を)売る。「あの時使われた銃、それが俺の売ったもので何故いけない?」
難民キャンプを望む小高い丘で取引。トラック2台分の火器。対価の宝石をじっくり鑑定。成立すれば、火器はそのまま控える兵士たちの手に渡り目の前の難民キャンプを蜂の巣にするだろう。
アクシデントでトラック1台炎上する。テーブルの宝石が半分になり、取引続行、成立。直ちに商品は価値を発揮する。
そんな場面が延々続くのだが、恐ろしいことに、この映画は映画であり、きちんと娯楽として成り立っている。映像も音楽も演技も、銃声の聞こえない国の裕福な観客達が「楽しめる」ように仕上がっている。
あなたがいてわたしがいる。そうかもしれない。彼等がいてわたしがいる。感謝するか?懺悔するか?憤るか?
苦笑。本当に苦笑しか浮かんでこない。観ていて困ってしまうのだ。何を感じようと俺の幸福も生き方も変えることなど無いのだから。