陽炎座

鈴木清順松田優作 陽炎座 [Amazon]

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ツィゴイネルワイゼン [Amazon] と比べるとはるかに明るくまともな印象。
しかし、例によってうまく感想が出てこない。凄い、とは断言できるが面白い、とは俺は、口が裂けても言えない。あれを面白いといえる人間に憧れるしなりたいけれども、嘘はつきたくない。そうすると見てて死にそうになったという事実しか残されない。
うへぇ。
不甲斐ない、もうちょっと努力してみるか…がんばれ理性。
ツィゴイネルワイゼンに顕著だった死のイメージも、もはやない。生死の彼岸には舞台がありまして、説明にならない説明が繰り広げられております。説明?冗談じゃない、幻想でも不可思議でもない、何かが何かぞっとするものが行われつづけている。困ったことにその行為は今投げ込まれて生きている世界を生のまま表現しているようにしか思われない。何故といって、もしその行為が俺と無関係なものであるなら、ろくに息もつけずに映像を凝視しつづけていたという事実が起こる筈もないから。
板子一枚下は地獄!一皮剥いた現実の地獄!
ふじょうりだふじょうりだ。
不条理と言うとき正に置かれる理というものはにんげんが頑張ってこさえた、現実と人生をブラウジングするためのツールな訳だが、なんとまあその出来の悪いことよ。かといってツールを取っ払ってじかにこの投げ出された世界を見つめようとした時に見えてくる「理」解の不可能さよ。これは恐怖です。自分の現在位置を把握できないということ。把握していたつもりでいたというのに、実は出来ていなかったんだよと言う親切な嘲笑。
耐えられるもんじゃない。
舞台は崩壊する。崩壊しても終わることなく続く映像。なんてことだろう、崩壊した廃墟が指し示すものは消去でも「大丈夫、これは嘘だよ」でもなく、確かに、それは在ったのだという証左に他ならないではないか。
ツィゴイネルワイゼンで許されていた死ですら、ここにはない。ほんとのことを垣間見て、垣間見させておいて、ただ記憶に刻み込んでおいて、それでもまだ映像を続けると?生きていけと?松崎の怒号も虚脱も飲み込んで、許すこともせず、それ以前に裁きもせず。
ざんこくなざんこくなざんこくな
死んだのは玉脇の旦那。死んだのは籠の鳥。
おんなを失った三文文士は、おんなと背中合わせに安らぐ自分の夢を見る。


カット!違う違う俺は理性じゃない。
どうやら我が理性は詩人の家に逃げ込んだご様子。然り、せかいの実相を汲み取れるものは詩人と哲学者だけなのだろうな。
彼の岸とこの岸をひょこひょこ行き交う原田芳雄は羨ましいより恐ろしいであることよ。


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